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世界の危機まで、あと2時間。あ、今2時間をきった。
あなたならどうする?
とにかく急いで何とかする?
それもいいけれど、もしもあなたが物語世界の住人なら、他にとるべき「正しい行動」があるかも知れません。

sw

「現実での正しい行動」と「フィクションでの正しい行動」


前回記事である映画『サマーウォーズ』の感想メモをアップして、しばらくしてから、ARTIFACTの加野瀬さんのtumblrに気付きました。

と、思ったら、「世界危機のタイムリミットが刻まれているときに、なぜ呑気に全員でご飯食べてるんだ」と怒っている人もいるらしい。現実で取るべき正しい行動と、フィクションでの正しい行動は別物なんだけどな。
サマー”ウォーズ”バケーション <田舎で見た、映画『サマーウォーズ』鑑賞メモ> - HIGHLAND VIEW 【ハイランドビュー】

これ難しいなー。これだと『海猿』の「救助途中で携帯電話」も「フィクションでの正しい行動」とも言えてしまう。
http://kanose.tumblr.com/post/168562507


確かに難しい問題ですね。加野瀬さんのご指摘に刺激されて、改めて考えをまとめてみたくなりました。
『サマーウォーズ』を例に出しますが、考えることは広く物語全般について。
「現実での正しい行動」と「フィクションでの正しい行動」の違いとは何なのか?



物語の中でも全力を尽くせ!


私は残念ながら映画『海猿』を見たことが無いのですが、「人命救出を急がないといけないような場面で携帯で長々とプロポーズ」が、当時ネットで話題になっていたのを思い出しました。
映画『海猿』のクライマックスでは、人命救助のタイムリミットが迫る中、主人公は恋人に携帯で連絡し、5分ほどプロポーズをするようですね。その後、救助に向かう。

なるほど。シチュエーションだけ見れば、『サマーウォーズ』での最後の食事と、確かにあまり変わらないですね。

実際、感想やレビューの方を少し検索してみると、「感動的な場面。感動しない人はどうかしてる」といった意見もある一方で、「人の命がかかっているのにおかしい」といった批判的な意見もなかなか多い。

『サマーウォーズ』でも、同じように怒っている人を私は見かけたわけですが、「フィクションでの世界や人命の危機」に、「現実で取るべき最適行動」を取らないと「おかしい」「頭が悪い」「リアリティがない」と批判するタイプの方は確かにいらっしゃいますね。
そういう方から見れば、『海猿』や『サマーウォーズ』のこれらのシーンは、「タイムリミットが刻まれているのになぜ時間を無駄にし、全力を尽くしていないのだ」ということになるのでしょう。

『サマーウォーズ』ご飯食べない派


こうしたクライマックスで「ご飯食べない」派の方に満足していただくには、こんな感じにすればよいのでしょうか?

・タイムリミットが迫っているのだから、時間を無駄にしない。
・全員集合してご飯は食べない。そんなことしてる場合じゃない。
・問題解決のため、全力を尽くす。


非常に堅実な行動です。もし現実で、ということでしたら、確かにこのような行動を取るしかないでしょう。

ただ、私の考えでは、食事なしルートを選んだら、間違いなく作戦は失敗します。敗北します。100%負けます。

では、映画どおりに、残り時間を浪費してでも、全員でご飯を食べたなら?
間違いなく、作戦は成功します。勝利します。100%勝てます。


なぜなのか?
それは「物語」だから。

「リアリティの無い行動」で約束される勝利



『サマーウォーズ』のあの場面では、「全員で食事」という「リアリティのない」行動をしなければ、作戦は成功しなかったでしょう。

私にとって「フィクションでの正しい行動」のラインはやはり、現実のルールでなく、物語のルールに従うかどうか、というところにあります。逆に言えば、物語がきっちりと構築されていないと選べない、成立しないわけですが。

「それにしても現実に沿って行動したのに成功確率0%ということはないだろう。もっと無駄なく行動して、10分、いや15分は稼げば、20%ぐらいに確率が…」

そういう問題ではありません。成功確率は0%です。

『サマーウォーズ』は、「家族の食卓」をひとつのテーマとして、物語を組み立てていました。
あの場面で食事をしないのであれば、どんなコンピューターや暗号の技術を使おうが、勝利は約束されません。

前回記事での「家族の食卓」部分を引用してきましょう。

  • インタビューなどで監督自身が語っていたように、「家族の食卓」は作画的にもテーマ的にも重要な役割を果たしていた。とにかく、みんなでご飯を食べる。

  • 侘助登場。彼は食卓の輪には加わらず、食事も口にしない。

  • そのあと、栄ばあちゃんが侘助をナギナタで追い回す際に、食卓は一度崩壊する。

  • 次の日の朝(「栄の退場後」)、これまでひとつの食卓を囲んでいたが、はじめて別々のテーブルで、一人ひとりに配膳された食事をとり、食卓がバラバラに。

  • しかし、侘助が帰還し、親族が再びひとつになると、大テーブルをみんなで囲み、大皿の料理を取り分ける食事をとる。ここは良かった。侘助が食卓につく際に当たり前のように誰も何も言わないのがよかった。

  • そしてその後、同じ食卓で食事をした全員で、ラブマシーン撃破に成功する。

  • 食卓の役割が非常に分かりやすい。

  • と、思ったら、「世界危機のタイムリミットが刻まれているときに、なぜ呑気に全員でご飯食べてるんだ」と怒っている人もいるらしい。現実で取るべき正しい行動と、フィクションでの正しい行動は別物なんだけどな。


  • 世界の危機の土壇場で、家族全員で食事をする、というのは「リアリティのない」行動なんだけど、きちんと組み立てられた物語の中では、これがも最も正しい行動になる。

    私は、フィクションがフィクションだからこそ可能な世界の救い方をする方が好き。
    もちろん、こんな解決は「現実ではあるわけない」。
    でも巧妙な物語の組み立てをすることで、現実の合理性を、物語の合理性が越えることができる。それが物語の快楽のひとつだな、と思っているのです。

    「みんなでお食事」Q&A


    「…食事の意味は分かった。でも、食事という、問題解決に全く関係ないことをしてるのはやはりおかしいんじゃない?」

    最後の「家族の食卓」シーンについては、初めて全員で食べる食事であると共に、状況の整理と作戦会議、さらにいつも不利な状況でも戦わざるをえない陣内一族としての覚悟とあきらめのシーンにもしていました。
    ここからノンストップの怒涛の最終決戦に突入しますので、食事を兼ねて、いくつかの処理を同時にしています。
    何より観客のためのシーンになっていて、クライマックス前の良い「決戦前夜」だな、と思います。

    「…食事の意味は分かった。でもカウント始まってから、わざわざ食べなくても、カウント前に食事すれば反発もないんじゃない?」

    うーん。確かに方法としてはそちらもありますね。でも、あえてカウント後に食事という構成を選んでいると思います。その方が対比も面白いですし。
    「家族の食卓」という物語の構造をちゃんとつくっているから、私はむしろ、タイムカウント中での「みんなで食事」シーンを、ニヤニヤ楽しんだほどです。
    だって、全員で食事してるからには、極端に言えば、残り時間なんか別に関係ないしねえ。

    「…食事の意味は分かった。でも、現実的な行動をしても絶対失敗するかどうかは、やってみなくちゃ分からないんじゃない?」

    クライマックスでの「家族全員での食事」が作戦成功のキーだということは、逆に言えば終盤まで成功の条件はそろわない、ということでもあります。
    中盤で、ケンジ(立案)、カズマ(キングカズマ)、理一(自衛官)、太助(コンピューター調達)、佐久間(OZ内サポート)など、問題解決に直接関わることのできるメンバーのみで、ラブマシーンに戦いを挑みましたが、これは失敗、敗北しました。
    直接の原因は、翔太兄がスーパーコンピューターを冷やすための氷を別の場所に移してしまったから、コンピューターが熱暴走を起こしてしまったこと。
    ここはコメディシーンにもなっていますが翔太は何も状況が分かっていないからこそ、そうしたわけですし、女性陣は「うちの男どもと来たらバカばっか」と、家事や雑事に追われて、何の関与もしていません。
    この中盤戦では、OZでの戦いに現実的に対応できるメンバーがほぼ揃っているはずなんですが、でもこれではダメなんですよね。家族の一部だけでは。
    何より最後のピース、侘助がまだ来ていない。「全員」にはどうやってもならない。(で、侘助を呼ぶ役割が夏希なんですよね)

    つまり一部のコンピューターが分かる人だけで現実的に事に当たっても、物語としては成功にはしませんよ、というのは中盤戦での敗北、という形で一度やっているわけです。

    と、いうことは「全員で食事せずに、最終決戦に向かう」というのは要するに、「失敗した中盤戦をもう1回繰り返す」だけ、ということになるわけですね。

    『海猿』のプロポーズ大作戦


    『海猿』のプロポーズ大作戦についても、受け入れられるかどうかというのは、それまでに組み立てた物語で、すでに半分は答えが出ているはず。
    「プロポーズしておかないと、この後の奇跡の救出が成功しない」と思えるだけの物語構造を組めていたのなら、別に問題はないのですが、どうもそうではないらしい。

    お膳立てだけではなく、プロポーズシーン自体も、タイムリミットに誰かの生命が直接かかっているにも関わらず、5分もの時間をプロポーズに使う、というのはあまりに長すぎたみたい。(サマーウォーズのタイムリミットは衛星の落下。その結果として二次的に被害が出る)

    ただ、だからといって、『海猿』のプロポーズ大作戦の存在自体を否定するつもりはありません。
    私は見ていないですが、役割はだいたい同じような感じだと想像します。
    つまり、生死を賭けた救出任務の前に、恋人と「約束」をして、帰り道のロープ(絆)をつくっておく、というような感じなんでしょうね。

    でも、ネットの感想を少し見た限りでは、あまりうまく作用していないみたい。
    それが本当なら私は、主人公が現実に取るべき最適行動をとらないことを批判するより、行動はフィクション的には正しいのに、機能不全を起こしている物語構造の方を批判する方を選びたいな。



    おまけ「お願い!! 説得に時間を!」



    もっと単純で、極端で、すっごく分かりやすい例では、『トップをねらえ!』5話「お願い!! 愛に時間を!」の「炎となったガンバスターは無敵だ」がありますね。
    そうです。「合体しましょう!」「お姉さま!」フー!のとこです。フーのとこ。



    宇宙戦艦ヱクセリヲンを護衛しながら、戦うバスターマシン1号、2号。
    地球の大ピンチなんだけど、コーチの命が気になってついに戦えなくなるカズミ(お姉さま)を、ノリコが説得する。宇宙怪獣により傷ついていくヱクセリヲン。絶体絶命。

    使い物にならなくなったカズミはほっといて、ノリコは地球のために全力を尽くせよ。
    と、あの説得シーンを時間を無駄にした行動だと文句つける人はまずいないでしょう。

    だって炎となったガンバスターは無敵だって言ってるんだから、2人の気持ちがひとつになって合体できたら、もうどんな不利な状況になっていようとそれは勝てますよ。敵が何億いようとね。
    つまりドラマは「炎となれるか」どうかであって、「宇宙怪獣をあと何体倒せばよいのか」ではないわけです。
    だから炎と化したあとは「お姉さま、アレを使うわ」「ええ、よくってよ」にしかならないです。

    私はつくづく、世界のルールを巧みに書き換えるような、よくできたフィクションが好きなんだと改めて思いましたよ。
    リアリティがない?ええ、よくってよ。それと引き換えに、すばらしい物語が組まれていればね。

    『サマーウォーズ』関連記事(四部作)

    このブログの『サマーウォーズ』記事です。よろしかったらどうぞ。最初の記事はネタバレありません。

    ■見る前(上映前)のレビュー
    日本の夏。『サマーウォーズ』の夏。 < 『ぼくらのウォーゲーム』再構築(リビルド)の価値は >

    ■見た後のレビュー ※ネタバレあり
    サマー"ウォーズ"バケーション <田舎で見た、映画『サマーウォーズ』鑑賞メモ>

    ■特別編:ゴハン食べるの?食べないの?(フード理論) (この記事) ※ネタバレあり
    世界の危機には「家族で食事」を <『サマーウォーズ』 フィクションと現実で異なる「正しい行動」>

    ■完結編:『サマーウォーズ』のパッケージングと可能性の検討について ※ネタバレあり
    10年前、世界を救ってくれた子供たちと、日常を守ってくれた大人たちへ<『ぼくらのウォーゲーム!』と『サマーウォーズ』>




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    Re: 世界の危機には「家族で食事」を <『サマーウォーズ』 フィクションと現実で異なる「正しい行動」>

     初めまして。

     言われることは、よくわかります。たしかに御飯を食べるのって必要ですよね。

     私が、ちょっと?と思ったのは、『花札』ですね。『花札』って堅気の家にはないものだと思ってたんですけど。特に由緒正しいおうちで、みんなで『花札』?アニメだから日本的でデザインの綺麗なアイテムが選ばれたのだなとは思うんですけど、ちょっと違和感ありました。

    Re: Re: 世界の危機には「家族で食事」を <『サマーウォーズ』 フィクションと現実で異なる「正しい行動」>

    コメントありがとうございます。

    私個人のことをいえば、『花札』は普通に家庭で楽しんでいましたので、違和感はありませんでした。(堅気です)
    「賭博」的なイメージを切り離せば、絵柄が12か月×4枚と、日本の四季がひと月ごとによく分かるようになっているので、自然と花鳥風月が身につきます。子どもと遊ぶのには良いゲームだと思います。

    『サマーウォーズ』での花札については、「家族のゲーム」という条件でいえば、トランプや百人一首でもいいはずです。
    (将棋、麻雀は、プレイ人数が限定されるので、大家族のゲームではない)

    それでも『花札』が選ばれたのは、
    ・日本的でデザインの綺麗なアイテムであること(おっしゃられたとおり)
    ・旧家が持つ「古い日本」のイメージを裏切らない
    ・90歳のおばあちゃんも遊べるゲームであること
    などの条件が揃うからでしょうか。

    その90歳のおばあちゃん役を演じられた富司純子さんが、映画『緋牡丹博徒』で主人公「緋牡丹のお竜」を演じていたのも、ひとつの縁になったと監督がインタビューで語っていました。

    また、子どもに日本を覚えさせるのに向いているゲームと同時に、外国の方への日本の紹介としても向いていると思いますので、これから海外展開される際にも、トランプより『花札』の方が魅力的なのではないでしょうか。

    「そもそも『花札』で決着をつけないといけないか」という問題は別としてあるとは思うのですが、『花札』自体が選ばれたのは妥当だと考えています。
    ただ、自分にとっては「家族のゲーム」だったけど、『花札』ってそんなにプレイされてないゲームなのかな、と皆さんの反応を見て、興味深かったりもしました。

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