『戦闘メカ ザブングル』は、富野由悠季監督作品。痛快冒険活劇といってよい楽しいアニメです。
このザブングルを、惑星ゾラという異世界を舞台にした"異世界もの"作品として改めて考えてみようというのが今回の趣向。

戦闘メカ ザブングル DVD-BOX PART1戦闘メカ ザブングル DVD-BOX PART1
(2006/05/05)
小滝進横尾まり

商品詳細を見る

物語の舞台として"異世界"が用意される作品は実に多いですが、魅力ある世界をつくるというのは大変難しいことです。舞台としての"異世界"をどう表現するか、という、広く物語のお話なので、ザブングルを知らない方にも興味を持っていただけるかも知れません。

※ザブングルのネタバレがありますので未見の方はご注意(ネタバレしても魅力を損なうような作品ではないですが)。



惑星ゾラたったひとつのルール「三日限りの掟」


富野アニメで産湯を使った身なので『ザブングル』も子供の頃、がんばって見ており、クローバー製のウォーカー・ギャリア(後半の主役機)を買ってしまったほどです。あのでっかいの。
しかし残念ながら最終回予告を見ながらも最終回を見逃し、全話を見直すことができたのは、ビデオレンタルが開始されてからです。その時は大人になっていました。
見直したときに、とにかく感動したのが、惑星ゾラで生きるための、たったひとつのルールこと「三日限りの掟」です。ルールに感動したのです。

wikipediaのストーリー紹介が、このルールを含めてよくまとまっているので、丸ごと引用しましょう。

「三日の掟、泥棒、殺人、あらゆる犯罪は三日逃げ切れば全て免罪」―それが惑星ゾラと呼ばれる地球の不文律だった。ロックマン(ブルーストーン採掘業者)、ブレーカー、運び屋、交易商人といった「シビリアン」達は、この掟を守って生きていた。
しかし、たった一人、この掟に抗った少年がいた。著名なロックマン「鉄の腕」の一人息子ジロン・アモスである。両親を殺したブレーカーのティンプ・シャローンを親の仇とし、掟の三日を過ぎても、なお追いかけ続けた。
ジロンと関わった者は知らぬうちに「三日で晴らせなかった因縁は全て忘れなくてはならない」という三日の掟を超えた意思を示し、彼の生き様は周囲を巻き込みやがてゾラの支配階級「イノセント」との全面戦争に発展する。
wikipedia「戦闘メカ ザブングル」


ザブングルはこんな感じで、西部劇風の世界で繰り広げられるコメディたっぷりの活劇です。

しかし、なぜ「三日限りの掟」というルールが、こうして作中に登場し、特に序盤、あそこまで強調される必要があったのでしょうか?

「西部劇風のアウトローがいる荒れた世界」という説明のためだけであれば、あそこまでルールを明示する必要はないはずです。ザブングルを見たことがある方なら分かると思いますが、西部劇風の世界観、というのは映像を見れば、十分に伝わってきています。
仮に「三日限りの掟」のルール説明が作品内でされなかったとしても、なんとなく「弱肉強食の原始的な社会」というのは伝わったでしょう。

それならば、なぜ「三日限りの掟」という(言ってみれば単純きわまりない)ルールを、作品内に明示する必要があるのでしょう?
私が考えるに、ザブングルがすばらしいのは「三日限りの掟」というルールと、それを明示したこと、そのものにあります。

それはどういうことか。その前に、まず「三日限りの掟」がどんな役割をもっているか、考えてみましょう。

世界観の紹介としての「三日限りの掟」


「三日の掟、泥棒、殺人、あらゆる犯罪は三日逃げ切れば全て免罪」

このルールが適用されている世界をぜひ想像してみてほしい。特にザブングルを見たことの無い方に。

「事実上、犯罪し放題だよね?やりたい放題、荒れ放題の弱肉強食世界じゃないの?」

うん。確かに。
惑星ゾラには、ほとんどこのルールしかない。唯一絶対のルール。
ザブングルの世界は、西部劇のイメージで分かる通り、決して治安の良い世界ではない。
なんせ犯罪を犯しても三日逃げ切れば良い世界。犯罪者天国だよね。三日逃げさえすればいいんだもの。時効が三日。

だけど、このルールにはちゃんと裏がある。
三日逃げ切れば免罪、ということは三日間は言い訳もなく悪人であるということ。
近代法治国家じゃないので、法的な手順は踏まない(そんなことしてたら三日たっちゃう!)。この社会は被害者も加害者もどちらもフォローしない。
三日以内に報復されても、何も文句は言えないし、それを避ける方法は三日逃げる以外に無い。
だから、主人公ジロン・アモスの両親を殺した、ならず者ティンプ・シャローンも、掟に従い三日を逃げ切った。
目には目を、歯に歯を。人を殺したなら、問答無用で殺されることを覚悟する。つまり、心はいつでもハンムラビ(西田敏行)。伝える言葉が残されるわけです。

そういえば昔「なぜ人を殺してはいけないの?」という問いがありましたが、惑星ゾラの人にそれを聞けば、ごく単純に「殺されるから」と返ってくるでしょう。

この非常に原始的な抑止力によって、荒れ事は日常茶飯事とはいえ何とか北斗の拳にはならずに、生活のバランスを保っているのが惑星ゾラなわけです。
もちろん、このルールが支配階級イノセントによって影でコントロールされていることも、社会が決定的には崩壊しない理由のひとつでしょう。

ここまでで分かる「三日限りの掟」が表現している世界観をまとめてみましょうか。

「三日限りの掟」で分かる惑星ゾラの世界
・単純なルールしかない非常に原始的な社会
・当然社会に荒れ事はつきもの。弱肉強食の傾向あり。
・被害者側も三日以内での報復が許されている。社会がフォローすることはない。
・どちら側になるにせよ、たくましく無ければ生きていけない社会。


これは、ザブングルを見たことがある人なら、素直にうなずけるところではないかと思います。
では次に、このルールは、ここで暮らす人々の心にどのような影響を与えているでしょうか?

行動原理の説明としての「三日限りの掟」


惑星ゾラの人々によくある傾向
・どうしても刹那的な生き方になる(長期的な生き方ができない)
・恋愛観も熱しやすく冷めやすい傾向に(惚れっぽい)
・自己責任でたくましく生きている


この世界では、誰しも加害者側だけでなく、被害者側にもなるでしょう。
重要なのは被害者側になったときで、いくら腹を立てても、三日間で決着をつける事が出来なければ、仕方なかったとあきらめていかなければ生きていけない。
野良犬にかまれたと思って、忘れて、振り切って、切り替えを早くしなければ生きていけない。
かくして、惑星ゾラの住人は、今現在その場、その場の幸せを考えて生きるようになる。
いつ何があるか分からないのだ。

また、人々は、ウォーカーマシン(ロボット)などのテクノロジーは、支配階級イノセントにもらっています。ザブングルもウォーカー・ギャリアもイノセントの技術です。自分達では作れないし、作る気もない。
だからイノセントがロボットでも船でも何でも交換してくれる青い石(ブルーストーン)を手に入れる方法だけ考えて生きていればいい。交易したり、力ずくで奪ったり。
非常に単純化された社会ですね。(この単純化は意図的に仕組まれたものと分かる)

恋愛観も影響を受けているでしょう。
昔「エルチもラグもお尻が軽い女性だ」と、ヒロイン達の惚れっぽさを批判というか、嘆いていた意見を聞いたことがあります。
確かにエルチもラグも、主人公ジロンをほっぽって、他の男といい仲になったこともあります。ヒロイン達のこうした行動は今だと下手するとビッチ扱いされるんでしょうか。

でもこれは、惑星地球の現代日本に生きる私達を基準にしているからそうなるわけで、ヒロイン達は惑星ゾラ基準ではごく自然にふるまっており、批判される言われは全くありません。
恋愛に「三日限りの掟」が適用されるわけではないが、惑星ゾラ気質というものはやっぱりあって、みんな惚れっぽい。熱しやすく冷めやすい。
好きになって三日で後腐れなく別れるような恋人達も多いんじゃないでしょうか。なんというかラテン系な感じで、その辺りすごく情熱的かつ、おおらかに思える。
刹那的に今を楽しんで生きるなら、いい男、いい女と出会ったときに、何にもしないのは間違ってるしね。
計画を進めるイノセントにとっても、シビリアンが幅広く交配する方が望ましい状況なんじゃないかな。

結局、社会的なフォローはほとんど無い代わりに、それにつきまとう社会的儀礼もモラルもマナーも薄い。
自分が幸せになるように自己責任でたくましく生きていくしかないのだ。
そして、みんな、実際にたくましく生きている。

最終回でのラグ・ウラロのとった驚くべきステキな行動


ひとつ鮮明に思い出すのは、最終回「みんな走れ!」のオーラスでの、ラグ・ウラロの行動だ。

最終回のラストで、主人公ジロンは、そっと仲間の元を去るヒロインエルチを追いかけて、エルチをつかまえる。
大人になって初めて最終回を見た私は、このシーンを見て「やっぱりエルチが第一ヒロインか…」と思った。完全にジロンがエルチを選んでいるから、エルチをヒロインとしてストーリーをまとめた、と感じた。
ジロンを巡るヒロインには、エルチ・カーゴとラグ・ウラロの2人の女性キャラがいる。私はラグが大好きだったが、話の流れとしてはエルチが第一ヒロインと呼ぶにふさわしかった。

しかし、この後、ジロンとエルチを追いかけて、仲間全員がやってくる。もちろんラグもだ。
そこで、ラグ・ウラロはびっくりする行動に出る。

ジロンに向かって走り、抱きついて、キスをするのだ。
それに対するジロンの反応はといえば「こいつぅ!あはははは!」と笑っている。


これはすばらしい!
ジロンは明確にエルチを選んだ。ラグはエルチをお姫様だっこして走ってくるジロンを見た。それでもラグはジロンに抱きついてキスするし、ジロンはそれをあははと笑う。
「主人公が選んだヒロイン」なのかどうかなんて、ラグには関係ないんだよね。ジロンはいい男で、エルチもいい女なんだけど、ラグもいい女なんだよね。それだけしかない。
私の好きなラグは主人公に「選んでもらう」必要なんか無いんだった。第一ヒロインとか第二ヒロインとか、男目線で物語のまとめ方を考えていた自分が恥ずかしかった。

このラストシーンは、バックで流れる名曲「HEY YOU」と合わせて、いつ見ても私を感動させる。ザブングルの全てを象徴しているよね。
ヒロインを主人公(男)の従属物にしか考えないのは、男女差別どうこうは一切関係なく、単に物語を楽しむ面で損だと思うので、ザブングルを見よう。
あと「エルチは目が見えないから、ラグがジロンとキスしてもどうせ見えないからいいよね」と考える魂の穢れた人には、容赦なくICBMを投げつけるよ!

このおおらかさを楽しめる人は見るべきだし、楽しめない人は一つ損をしてるから楽しみを増やすために見るべき。
つまり、みんな、見れ!そして走れ!(感動とかその他もろもろで)

異世界の人々の内面をどう考えるべきか


ということで、まとめましょう。
「三日限りの掟」には、世界観説明と、そこで生きる人々の生き方・考え方の説明と、2つの役割があるわけです。

■「三日限りの掟」 2つの役割

(1)世界観説明
・単純なルールしかない非常に原始的な社会
・当然社会に荒れ事はつきもの。弱肉強食の傾向あり。
・被害者側も三日以内での報復が許されている。社会がフォローすることはない。

(2)人々の行動原理、生き方説明
・どうしても刹那的な生き方になる(長期的な生き方ができない)
・恋愛観も熱しやすく冷めやすい傾向に(惚れっぽい)
・自己責任でたくましく生きている


つまり「三日限りの掟」とは、単なるルールではなく、作品を一言であらわすことができるキーワード
世界設定のためだけでなく、そのルールで生きる人々の意識、考え方までを一言で象徴させるための重要なキーワードなのです。

いわゆる"異世界もの"という作品は数多くあって、そこには作品ごとに違った世界と、違った人々が住んでいます。
しかし難しいのが、異世界で生きる人々の内面が、我々(視聴者、読者)とどう違うのか、ということ。
オリジナリティあふれる世界観や、斬新な設定、見たこともない生き物や街やファッション。
そういった異世界もので一番楽しいところに凝れば凝るほど、
「じゃあ、そんな不思議なところに生きている人々は、私達とは考え方や生き方そのものがかなり違うんでしょうね」
となってしまうのだが、そこはわりと我々と大差ない作品も多いように感じます。

もちろん感情移入できないようなキャラクターで物語をする必要もないのだが、あまりにも我々(しかも現代人)に近いと、オリジナリティあふれた世界とキャラクターの間で生じる"ずれ"に少々戸惑いを覚えます。

それを解消するために数多くの設定やエピソードを重ねたり、いくつもの専門用語を造語してみたりして、我々とは違う人々を表現することはできます。

重要なのは、ザブングルではそれを、たった1つのキーワードにまとめたということ。

この課題はシンプルなキーワードに集約させることこそが重要であり、難しいと、私は考えます。
「三日限りの掟」は、ザブングルの世界観とキャラクターの行動原理が、ひとつのルールに集約されています。
ザブングルは西部劇風の世界ですが、極端な話、この「三日限りの掟」を用いれば、ファンタジー風だろうと、未来世界風だろうと別の「三日限りの掟」の物語が作れる。これは、そういうレベルの重要なキーワードです。(村上龍における「5分後の世界」のような)

こうして、このルールは、作品全体を貫くキーワードとして、作品内で明示され、適用されました。
「三日限りの掟」無しでは、ザブングルの世界―惑星ゾラは、替えの効く「西部劇風世界」としてのみ表現されていたかも知れません。

では最後のまとめ。

「三日限りの掟」を用いた『戦闘メカ ザブングル』という作品のすばらしいところ
・たった1つのルールで、作品世界とそこに生きる人々の内面の両方を表現しているところ。
・そしてこの定められたシンプルルールを破る(掟破り)ことがテーマになっていること


ここまで「三日限りの掟」のすばらしさを語っていてなんなんですが、ザブングルはルールを破る物語です。ここまで語ったようにすばらしい1つのルールがあるわけですが、主人公ジロン・アモスは、このたった1つしかないルールを破っていきます。それが「掟破りのザブングル」となって作品全体のテーマにもなっているのです。その意味でもルールの明示は必要不可欠でした。

ですから、ルールとしての「三日限りの掟」と、そのルールを破るジロン・アモスを両方語っておく必要があるのですが、ここまででもう十分すぎるほど長くなりすぎました。
「掟破りのザブングル」については、また機会を改めて。
次回、戦闘メカ ザブングル「なんで掟を破るのさ」でお会いしましょう。
さて。(さて、どうしよう…)

戦闘メカ ザブングル DVD-BOX PART2戦闘メカ ザブングル DVD-BOX PART2
(2006/05/26)
小滝進横尾まり

商品詳細を見る
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

PAGETOP